2.日本の水の特徴
”日本の魂”から作られる日本酒は、水と米と米麹から作られています。酒造りには大量の水が必要であり、また特に仕込み水は日本酒そのものの原料水であるため、酒造りにとっての「水」の重要性はいうまでもありません。
酒造りのための水(酒造用水)には井戸水・湧水・上水道水などが使われていますが、通常の飲用水より厳しい基準が設けられています。今回のプロジェクトでは地質から見た水についての調査を行いましたので、これらの水の成り立ちについて地質を絡めて記述します。
仕込み水として使われる水はいわゆる”淡水”です。地球は水の惑星ともいわれ、その表面の約70%は海洋に覆われていますが、ほとんどが海水で、淡水それも人が利用できる形となっている淡水(河川、湖沼、地下水等)は、地球上に存在する水のおよそ1万分の1にすぎません。
地球上の水は絶えず形(気体・液体・固体)や成分を変えて移動し続けています。海や地上の水は太陽のエネルギーによって蒸発し、上空で雲になりやがて雨や雪になって地表面に降りそそぎます。そして、それが地下に浸み込んだり地表面を流れ出て、次第に集まり川となって海に至るというような循環を繰り返しています。これを水循環といいます。地球にいつ水が誕生したのか、その起源や時期についてはまだはっきりとしたことはわかっていませんが、いずれにしても、数十億年も地球上ではこの水循環が行われ続けているのです。
この水循環の過程で、水(H2O)に含まれる様々な溶存成分が変化しますが、この成分変化の要因には主に「気候要因」、「生物的要因」、「岩石要因」の3つがあります。今回は、水と地質の関係を調べていますので、「岩石要因」による水質の違いを中心に分析を行いました。この「岩石要因」は地下の現象ですので、地下水の方が影響が大きいことが分かります。地下水を調査したいくつかの先行研究でも、地下の地質や岩石の種類によって水質が特徴づけられることが明らかとなっています。
さて、通常仕込み水として使われている水は、浅層地下水がその起源となっていることが多いのですが、その浅層地下水の水質を特徴づける要因には以下の3つがあります。
- 岩石と土壌
- 滞留時間
- 降水量
造りに携わる方々が気になる「硬度」は、水に含まれるカルシウムイオンとマグネシウムイオンの一定の計算式に従った合計濃度を表しています。ミネラルウォーターなどでも日本の水はヨーロッパの水にくらべて軟らかいものが多いのですが、一つの要因として、その「地形」の違いによる滞留時間の違いが挙げられます。
図1に同じ縮尺で表した日本とヨーロッパの地図を並べてみました。これを比べると、ヨーロッパは南部にアルプス山脈など急峻な地形がありますが、北部は広い平野や台地が多いことが分かります。一方、日本は山地が国土の約70%を占めており、大きな平野がほとんどありません。そのため、地表に降り注いだ雨や雪は海に流れるまでの滞留時間が短く、イオンが溶存しにくい地形となっています。これは、図2にもある通り、日本の河川勾配が大陸の河川より急であることからも分かります。その結果、より短時間で海に流れます。
もうひとつの要因として「降水量」の違いが挙げられます。
世界の年間平均降水量の分布を見ると、ヨーロッパに比べて日本は降水量が多いことがよく分かります。そして、日本の降水量分布は北大西洋東岸に似ていることもわかります。上記の「地形」とこの「降水量」の特徴から、日本ではヨーロッパに比べて水循環が盛んであることが分かります。
また、日本国内でも季節や場所によって大きく異なります。冬季は日本海側への降雪が多く、夏季は太平洋岸での降雨が多くなります(図3)。このように地域性があるということも水に関する日本の大きな特徴です。